情報化推進レター

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Course N@vi事例紹介

オンデマンド授業と教場での実習を組み合わせ、より効果的な教育を実践

向後千春
人間科学学術院准教授

コンピュータを教育に活かすというアプローチから始まる教育工学が専門の向後准教授にとって、Course N@viの導入は自然な流れだったという。今では、お知らせ機能からレポート提出、小テスト、成績管理、そしてオンデマンド授業まで、あらゆる機能を使っている。そんなヘビーユーザーならではの、今後期待される活用法について伺った。

eスクール用に作ったオンデマンドコンテンツを、通学生にも活用
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向後准教授が所属する人間科学部では、2003年より通信教育課程(通称eスクール)を開設している。このeスクールにおいては、オンデマンドのみでも卒業することが可能であり、講義受講、レポート提出、小テスト受験、ディスカッションなどがWeb上で行われる。つまり、世界中どこにいても、インターネットに接続できる環境さえあれば、教育が受けられるシステムになっているのだ。

そんな背景もあり、向後准教授が担当する3つの講義科目の全授業は、すでにオンデマンドコンテンツ化された状態にあった。同学部では、eスクールと同じ科目でも通学制の学生に対しては対面授業を実施するのが普通だが、向後准教授の場合は、2008年度より、eスクール用に作成したオンデマンドコンテンツを通学制の学生に対しても活用している。

とはいえ、「すべてをオンデマンドで行うと、通学制である意味がなくなってしまうのでは」という考えから、オンデマンド授業と対面授業を組み合わせて行うのが向後准教授の活用法だ。つまり、1回目は教室で従来通りの授業を行い、翌週はオンデマンドの授業を受講させ、その次の週にまた教室で授業を行う。このようにオンデマンド授業と対面授業を隔週で交互に行い、15回目は教室の授業で終える。

オンデマンド授業を受講した後は、簡単なテストやレポートを課す。そこで各自が予習した内容に基づき、次の週には教室において小グループの実習を行っている。

従来は、90分の授業のうち、毎回最初の30分で講義を行い、残りの60分で実習を行っていた。しかし、実習時間が不足することがあるのに加え、今レクチャされたばかりの内容を、学生がその場ですぐに理解して実習に活かすのは難しい面があったという。

その点、あらかじめオンデマンド授業を受講させておけば、翌週は授業開始と同時に実習にとりかかることができる。レポートなど予習を終えた状態で実習に臨むことで、以前に比べ学生の意欲も向上し、はるかに効率がよいという。「小グループでの作業では、予習をしてこないとまわりに迷惑をかけるので、学生たちも十分に準備してくるようです」。

この試みを初めて実施した2008年度の春には、オンデマンド授業用に用意された15回分のコンテンツ視聴を隔週で消化するために、1週に2回分ずつ受講させる必要があった。しかし、学生への負担が大きかったことから、同年度秋に実施した科目では、オンデマンド授業は8回分として収録した。「1週おきに対面授業1回、オンデマンド1回のペースで進められるので、かなり効果的であるという感触を得ました」。

オンデマンド授業を取り入れた結果の単位取得率は約80%程度で、対面授業と変わらない数字をキープした。「学生にとっても、時間や手間はかかっても、自分の努力がきちんと報われる授業ならば、しっかりやるということなのでしょう」と向後准教授は分析する。「教員にしても、Course N@viを使うようになれば、かえって、いい加減な授業はできなくなると思いますよ」。

「この方法だと、教室での講義が2週間に1回に減ることで、教員の労力は格段に軽減します。その分のエネルギーを教室での実習に注げるようになるので、より効果的な教育が行えます」。学生の側でも、毎週実習を行っていたときと比べ、隔週での実習は気力が充実して士気が高まっているようだという。

現在は、人間科学部においても、通学制の学生に対してオンデマンド授業を活用しているケースはまだ少ないという。「人間科学部の場合、せっかく作ったオンデマンド用教材があるのですから、これを利用しない手はないと思います。今後はもっと増えてくるのではないでしょうか」。向後准教授は、一度作成したオンデマンド授業用コンテンツは3年間使い、3年後にまた撮り直す予定だ。

2009年度からは、ゼミにもオンデマンド授業を導入予定

オンデマンド授業と対面授業を組み合わせるというこの方式を、2008年度は担当する3つの講義科目で実施した。加えて、2009年度からはゼミにおいても、この方式を導入するという。

たとえば、卒論のテーマを決めるにはどうすればいいか、どんなテーマがよいか、参考文献はどのように調べるかなどについてレクチャした内容を、あらかじめオンデマンド授業で受講させた上で、次の週に教室で顔を合わせて作業を行う。事前に、各自で3つぐらいテーマを考えてBBSに書き込ませておくことも考えている。「10数人で構成されるゼミにおいて、隔週でしか顔を合わせないという進め方が、講義と同じようにうまくいくのかという心配はありますが、何とか工夫しながらシステム化していきたいですね」。

将来的なプランとしては、多少のスクーリングは行うとしても、ほぼすべての授業をオンデマンド化することを考えているという。「たとえば、アメリカのフェニックス大学などは、通学制はなく、フルオンデマンドで行う通信制専門の大学ですが、立派に修士号を取る人材も育っています。日本の大学でもいずれはそういう形がもっと増えていくのではないでしょうか」。

ただし、欧米の大学では、オンデマンドでビデオを流すだけで授業が成立するという認識はなく、BBSのディスカッションで相当濃密な論議をした上で、単位認定をしているそうだ。「その点、日本では、まだディスカッションをとことんやるというところまではいっていないですね」。

そもそも、欧米のような「言葉の格闘技」というべき文化がないため、自分の主張を論理的に述べて議論を戦わせるということ自体、日本人は得意ではないともいわれる。「自分の主張で相手を説得するというトレーニングが不足しているのだと思います」。

それに加えてBBSでの文字でのやりとりの場合、「深く考えすぎてしまったり、簡単に傷ついてしまったりする傾向がみられます。すぐに返答をしないなど、マナーの問題もある」というのが向後准教授の印象だ。そのため、現在BBSを使う場合には、議論の場としてではなく、個別に意見を書かせ、それを互いに読んで、他人の意見を参考にするという形で使用しているという。

顔写真付きBBSやチャット機能の要望は実現へ

Course N@viの開発から導入に関して、「もっとも要望をたくさん出したのは私でしょう」と語る向後准教授。学生に授業の感想や質問を記入させるレビューシートもそのひとつだ。向後准教授が担当する講義クラスは、300人規模となるが、最初の授業では練習用として、全員にこのレビューシートを提出させ、その全部にコメントを返している。2回目以降の提出は任意としているが、2~3割の学生が記入してくるという。「今まではわからなかった学生の考えを把握できるのがいいですね。授業の内容を深く理解しないと書けないような内容を書いてくる学生もいます。まじめに考えている学生の存在を確認できるのはうれしいものです」。

Course N@viへの今後の要望としては、「画面が殺風景なので、もう少しフレンドリーな画面にならないか」という点を挙げる。たとえば、「BBSに小さな顔写真が表示されれば、どんな人が発言しているのかがわかります。文字だけでやりとりするのと比べて、それだけでもいわゆる『荒れる』といわれるような状態を防げるはずです」。

また、同時にログインしている人を一覧で確認できて、その中に自分の知っている人がいれば、呼びかけてチャットをするという機能を提案する。「同じ時間にいっしょに勉強をしている実感が持てて、モチベーションアップにつながるのではないでしょうか。チャットルーム自体、学生同士がちょっと気になることを相談し合うなど、ニーズは必ずあると思いますよ」。

向後准教授らの要望に応え、BBSの顔写真表示機能は、2009年4月よりCourse N@viに追加された。
※チャット機能については2010年度に向けて機能追加を検討中

グループワークもオンラインでできる仕組みを希望

さらに、グループワークを実現する機能として、「Wikiのようなシステムが実装されるとうれしいですね。これがあれば、4~5人で集まってひとつのレポートを作成するということなどができるようになります」。

今は対面で行っている小グループのワークショップも、いずれはオンラインで実施したいと、向後准教授は考えている。「テレビ会議やスカイプ、iチャットなど、徐々にいろいろなツールができつつはあるものの、今はまだこれらを導入しても、運用上面倒な部分がありそうです。しかし、将来的には、対面で行うのと同じような熱い一体感を、離れた場所にいるにも関わらず実現できたらいいですね」と夢はふくらむ。

「新任の教員たちにCourse N@viを説明すると、とても反応がよいようです。教員にとっても、最初からこれを使えば、いろいろなことが本当に楽になるはず。今後、導入する教員が増えてくれば、Course N@viを巡る環境も大きく変わってくると期待しています」。

Course N@viデビューへの一言!
成績管理をCourse N@viで行うと、作業が楽になるだけでなく、計算間違いや転記ミスなどによる誤りが防げるので、ぜひともおすすめです。
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※画面(成績管理の画面)
出席や小テスト、レポート、BBSの発言に対する点数をそれぞれ入力しておくと、あらかじめ登録した配分に応じて自動的に最終評価を計算することができる。
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