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オピニオン

No.130 コングロマリットを考える

 三井住友フィナンシャルグループ(FG)と大和証券が経営統合を検討しているそうです。この統合が実現すると、銀行と証券会社の業態の垣根を越えた複合企業体、いわゆる「金融コングロマリット」が日本で初めて誕生することになります。三井住友FGと大和証券の動きを受けて、不良債権処理が一段落した他の日本の金融機関が追随することも考えられます。

 こうした動きを産業界や消費者、政府はどう見ているのでしょうか。経団連の奥田会長は「金融業界がコングロマリットの方向に動くのは、起こるべきことだと思う」と評価しました。消費者を対象にしたあるアンケートでは、6割以上が銀行と証券の統合に「期待する」か「どちらかというと期待する」と回答しています。政策の面での後押しもあります。金融庁は2004年末に発表した「金融改革プログラム」で、コングロマリット化を促す方針を明らかにしました。期待の声と後押しがある一方で、金融コングロマリットの具体的な姿が見えないと指摘する証券アナリストも少なくありません。

 日本で関心が高まっている金融コングロマリットについて経営戦略の視点から考えてみましょう。

なぜ金融コングロマリットなの

 コングロマリット化のメリットの一つは、異なる業態の事業がもつ経営資源が組み合わせることで生まれる相乗効果であるといわれています。たとえば、銀行は自分たちが資金を貸し出している企業が債券や株式を発行して資金調達したいときに、同じ企業体の証券会社と協力することが可能になります。社外に仕事を流出させることなく、顧客のニーズを満たすことができるわけです。消費者に対しても預金、証券などの金融商品を一つの店舗で提供する「ワンストップショッピング」を展開すれば、それぞれの商品を別々の店舗で提供するよりも効率的に売り上げを増やせる可能性があります。これまで銀行だけ利用してきた消費者に証券会社の投資商品を、証券会社の顧客に銀行の貯蓄商品を販売することも考えられます。銀行と証券会社のそれぞれがもつ販売力や商品力、専門的なノウハウといった経営資源を組み合わせて利用して相乗効果をあげることが可能になるわけです。

 コングロマリット化で先行する米国のシティグループでは、銀行と証券の担当者が協力しなければ獲得できなかった案件が年間300件程度あり、グループの銀行に口座を持つ顧客は投資信託や保険など平均3.6個の商品を購入しているそうです。シティグループは、すでに売却した損害保険事業に加えて、今年1月に生命保険・年金事業の売却を決めましたが、銀行と証券の間では大きな相乗効果をあげていると同社の経営幹部はインタビューで話しています。

業態の垣根と組織の壁

 こうして見ると金融のコングロマリット化はよいことばかりのようですが、課題も少なくありません。ここでとりあげたいのは、銀行や証券など性質が大きく異なる事業をどのように評価するかという点です。これは現場で働く人の動機付けに作用し、結果として、統合後の相乗効果に影響するからです。

 事業の性質が大きく異なる場合、それぞれ事業を独立したものとして個別に評価することが一般的です。銀行は銀行業務の成績で、証券は証券業務の成績で事業別に評価するわけです。この手法には、働く人が自分の担当する業務で専門性を高めて成績を上げようと動機付けするメリットがあります。一方で、自分の評価には反映されなくても会社全体の利益につながる仕事に無関心になるというデメリットもあります。たとえば、銀行の担当者が銀行業務の成績でしか評価されないのであれば、自分が担当する企業を証券会社に紹介する動機付けが弱くなってしまいます。このように現場で働く人たちが自分の事業に隔離されてしまうと、資本関係で統合されて業態の垣根を越えた後も高い壁で区切られた縦割り組織が残ってしまいます。これでは、それぞれの事業がもつ販売力や商品力、専門的なノウハウといった経営資源を組み合わせて利用することが難しくなります。ここにトレードオフ(二律背反)があるわけです。

資本ベースと資源ベース

  コングロマリット(conglomerate)は「複合企業体」と訳されますが、その原義は地質学の用語である「礫岩(れきがん)」です。礫岩とは、水底に積もった岩石の破片が粘土などと交じって一つの塊になっている様です。単に資本関係で銀行や証券会社を束ねるだけでは、原義の「礫岩」のままです。組織の壁を越えて経営資源を複合的に利用する仕組みを備えてこそ、「複合企業体」となるのはないでしょうか。資本ベースから資源ベースへ。経営者の手腕が問われています。

(2005年3月22日更新)


※この特集はasahi.comに2002年10月〜2008年3月まで掲載されたものです。
※掲載内容を早稲田大学と朝日新聞社に無断で転載することを禁じます。

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