
本日、ここに2009年度大学院入学式を挙行するに当たり、大学を代表して新入生諸君ならびにご列席の皆様に心よりお祝いを申し上げます。
今日、早稲田大学大学院の門をくぐられる方々は修士課程2,758名、博士後期課程409名、合計3,167名の多きにのぼり、研究心旺盛な精鋭を迎えることに大きな喜びと誇りを感じています。本年度の学部新入生と大学院新入生の総数は13,314名であり、大学院新入生の割合は全体の約24%(4分の1)を占めることになります。大学院大学を志向する本学は、修士課程を置く大学院17、博士後期課程を置く大学院18、専門職学位課程を置く大学院6つの体制を敷いています。
早稲田大学は、2004年9月より「学術院」という体制を導入し、学部・大学院教育および研究機能の強化をめざし、関連する学部・大学院・研究所の系統全体の管理・運営に関わるさまざまな問題に柔軟に対応することとしています。10の学術院のすべてに当てはまるわけではありませんが、学術院は主として、18歳人口を対象とした教育を中心とする学部、研究者養成を主体とする研究型大学院、仕事を持ってからも学ぶ生涯学習に対応し高度の実務家養成を目的とする専門職大学院から構成されています。
学術院は、学部における教育の充実および人材育成、研究型大学院における先進的な研究の推進、専門職大学院における生涯学習・社会人教育を一体化して可能とする組織であり、本学の三大教旨 「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」を実現する体制であるといえます。
2007年10月に創立125周年を迎えた早稲田大学は、日本の大学という存在を超え、グローバルユニバーシティ「WASEDA」として世界で存在感を顕示しうる教育研究機関へと一層飛躍していく方針を打ち出しました。教育面で言えば、各学術院の持つ多様で高度なプログラムと学部横断型の共通カリキュラム、さらに豊富な国際交流の仕組みによって、「教育の早稲田」を名実共に誇れるレベルを実現しています。
また、研究面に焦点を当てれば、世界最高レベルの研究水準の実現を通じて、国際的な研究大学としての地位を確立することをめざしています。このような方向性を具体化しようとするものが、昨日発足したばかりの「研究院」です。学術院に加えて研究院を発足させた背景には、学術院の枠組みを超えた研究者間の交流あるいは学際的研究を促進するとともに、重点を置くべき領域において全学的規模で研究を推進する体制を構築することがあげられます。研究院という全学的組織の中には多くの研究所が含まれるわけですが、中でも若手研究者の自由な研究の場として、高等研究所があり、溌剌とした研究が進められています。このような新たな研究体制によって、社会を導きうる大学として、学問的な責務を果たすとともに、実社会における諸課題に取り組み、学生の実学的な能力の向上にも資することができると考えています。
しかしながら、真のグローバルユニバーシティ「WASEDA」の確立は、研究に邁進する若い諸君の双肩にかかっているといっても過言ではありません。早稲田大学の特徴として「進取の精神」をあげることができますが、このような教育・研究環境を存分に活用して、諸君が知的創造力を駆使し、新たな研究を大胆に展開することを期待しています。
さて、人類の歴史を見れば、気候変動や人口増加など様々な困難性に直面したり、部族間、民族間、地域間の征服の争いを繰り返し経験してきました。その間に様々な技術が生まれ、終に今日まで来ました。今や、情報は瞬時に世界を巡り、必要ならば地球上の大抵の場所にはそれほどの時間を要せずに移動することが可能です。
昔、本学の創始者である大隈重信は、ある演説でやがて飛行機という自由に飛ぶ機械が作られるという。そんなものが出来れば、戦争は大きく変わってしまうであろう。敵の都市を上空から直接爆撃して破壊することができる。しかしながら、そのような戦いをすれば都会に住む一般人が命を落とすことになり、攻撃を加えたものは世界中の非難を受けることになるから、むしろ平和な世界となるのではないか、と述べておられる。実際、現在の核兵器や弾道ミサイルなどは同じ意味を持つかと思われるに至ったが、だからと言って局地的な紛争がなくなるわけでもありません。むしろ、情報技術や金融技術などの発達によって、世界中に複雑に入り組んだ、主として経済的な厳しい危機状況が生み出されるに至りました。
一口にグローバリゼーションと呼ばれる社会、世界中を連結して呑み込んで行く社会が当面した地球規模の問題、これは経済危機だけではなく、環境問題、資源問題、人口問題、食料問題など多数あげられます。これらの問題の解決が困難なのは、やはりグローバルになされなくてはならないからです。一昔前は、個人の努力や小さなコミュニティの力によって救われる問題も多数ありましたし、そのローカルな問題解決が関係する個人に多くの満足を与えることができました。しかし、現代はそのようなローカルな解決に大きな限界があります。結果として個人の無力感を生み、コミュニティの消滅が起こっていますが、その傾向は都市への人口集中さらに人口減少と高齢化のもたらす社会構造の変化によって、一層助長されています。近代市民社会の発達の中では、自由や人権、民主主義などを実現する努力が続けられてきましたが、現代のグローバリゼーションの世界では、今までの原理によるシステムの追究で、世界中をある程度、満足させることが可能なのかどうかが問われています。大きな覇権国の力さえも衰えつつあり、それに依存するだけで安定した世界を作るのは難しいと思われます。問題は一層複雑で大規模になっているのです。そして、個々の人間は生物学的にグローバル社会にどう対応できるのか、あるいは対応可能にする人類の進歩とは、学問によってあるいは教育によって可能であるのか。
大学はこのような根源的問題について何か答えを示すべく挑戦しなくてはなりません。グローバル社会を成立させ、地球を持続可能にする取組は、人類社会にかなり根本的変化を要求しているでしょうし、大学はこの問題を考える課程を用意し、個々人が現代社会に対応して大きく変わりうる場所、つまり学習する場として、最大限に機能しなければなりません。
今日、地球的規模の諸課題を解決する上で、あらゆるシステムのイノベーションが必要とされています。同時に、時代的基軸や時代的概念であるパラダイムのシフトが生じ、世界に向けて新たな価値観や理念を提示することが求められています。「真理に国境なし」。これは創立者大隈重信が明治期に既に述べた言葉ですが、混迷する現代社会に対して、大隈が述べた国境を超えた真理に基づき、新たなパラダイムを提示したいという思いを強く持っているところです。
総合大学としての早稲田大学は、多様な学問・文化・言語・精神が交流する場であり、多様性・多彩性・総合性・学際性こそがさまざまな分野におけるイノベーションをもたらし、科学技術の創造、社会の変革、制度・システムの設計、新基軸の構築に貢献するものと思います。諸君がイノベーティブたらんと欲すれば、いわゆる「蛸壺」に入り専門性のみを追い求めるのではなく、幅広い教養や素養に裏打ちされることが必要です。また、文系・理系を問わず、絶えず社会の動きや社会の要請を的確に把握し、学問と社会の架け橋を担おうとする積極性が欠かせません。これは、研究院発足の背景と相通ずるものがあります。是非研究院の活動にも主体的に参加してください。
私は、大隈重信が説いた「東西文明の調和」を基調として「アジア太平洋地域における知の共創」を提唱してきました。これを実現するために、知の国際連携、知のネットワークの形成を推進することが必要です。地球上の至るところを学びの場とする「グローバルキャンパス」という発想のもとで異文化と対話し、深い学識と見識を持った地球市民の一人として活躍してほしいと思います。大学院には、多くの留学生を迎えていますが、国際交流は、今年も一層活発化することは間違いありません。
本日、早稲田大学は新たな学問領域に果敢に挑戦しようとする新進気鋭の3,167名を迎えたわけですが、諸君の前途が輝かしいものであることを確信しています。おわりに、諸君の大学院における研究生活が実り多きものとなることを祈念して私の式辞といたします。入学本当におめでとうございます。