Waseda Weekly早稲田ウィークリー

インディーズ・バンド対談<後編> “バンド”という人生 シャムキャッツ 夏目知幸 × Taiko Super Kicks 伊藤暁里

波瀾万丈だからこそ見つけられた“起業”という自分だけの道筋

早大出身のバンドマン二人に焦点を当て「音楽で、インディーズで、生きていくこと」を掘り下げていく本特集。一人は自ら起業し、自主レーベル(※)で大手レコード会社中心の音楽産業に対して真っ向から挑戦している「シャムキャッツ」の夏目知幸さん。もう一人は、メンバーのほとんどが会社に勤めながら「表現活動こそが生きていく糧だ」と語る、「Taiko Super Kicks」の伊藤暁里さん。<後編>は、波瀾(はらん)万丈すぎる彼らの歩みや、その中で見つけたバンドで生きていく方法、また音楽活動が彼らにとってどういうものなのか、などなど。バンドマンとしてのリアルな生き方にフォーカスしてお届けします。対談は口調こそ軽やかながら、しばしば熱を帯び「未来は自ら創造していくものだ」という力強いメッセージを感じるものとなりました。

※レーベル・・・レコード会社が持つブランド

左から、シャムキャッツ 夏目知幸(なつめ・ともゆき)さん(政治経済学部 2008年卒)、
Taiko Super Kicks 伊藤暁里(いとう・あきさと)さん(国際教養学部 2015年卒)。
伊藤
何かのインタビューで読んだんですけど、確かシャムキャッツは、その曲をたくさん作ってライブもしまくるという“”修業”を経た後、セカンドアルバムのタイミングもなかなか大変だったんですよね。
夏目
2011年3月9日に自主制作で「渚」というシングルを出して、その次は「P-VINE」と契約してセカンドアルバムをリリースする話をしていたんですけど、ちょうど今後の動きを決める打ち合わせが、3月11日だったんです…。「渚」は発売して2日後に「津波を想起させる」という理由で、ミュージックビデオが放映中止になっちゃって。ミーティングはいったん日を改めることになったけど、あんな状況だったから、話を進めること自体が難しくなった。
伊藤
波瀾万丈ですね…。

――その波瀾万丈さって、今回の独立にもつながる話ですよね。

夏目
そんな感じで本当にずっと、ドタバタしてきたので(笑)、昨年はバンドをより良くしていくために環境の変化を求めて、お客さんから見えないところでいろいろトライしてたんですけど、その中でいい話もあったんですね。でもそれは、残念ながら頓挫した。だから正直なところ、最初から強い意志で独立を決めた訳じゃなく、必要に迫られて最良の選択をした結果が、会社を設立して自主レーベルを作ることだったんです。

――伊藤さんの話にもあったように、バンドって何が正解か分からない。その中で、これまで日本ではメジャーデビューすることが、ほとんど唯一の成功への道筋だったと思います。あえてそのシステム自体に挑戦していく道を選んだのはなぜですか。

夏目
挑戦してるつもりはないですよ。メジャー、インディーズの対立で話をしても有益じゃないし、ポジティブなものは生まれないと僕は思ってるんで。ただ、そういう考え自体を挑戦的に思う人もいるかもしれない。会社を作ったのは…根本的な話になるんですけど、そもそもバンドってかなり不安定な組織で、「この4人でシャムキャッツって名前のバンドです」と言ったところで、社会的に見たらその辺の仲良しグループにすぎないし、信用なんてどこにもない。
伊藤
バンドって、レコード会社とか何かに所属しないと売り物になりにくいですもんね。バンド自体もどこかに所属することで、初めてちゃんとした組織になる。
夏目
うん。だから自分たちでしっかり責任の持てる組織を作って、その会社が扱うバンドなんです、ってことにすれば社会的信用も多少は得られるし、活動においてはコストや時間を自分たちでコントロールできるから、より良いものが作れるんじゃないかと思ったんです。
伊藤
今バンド活動をするって、自分たちのマネジメントも考えていかなければならないですよね。
夏目
それに、真剣に音楽で食べていくことを考えると、自主レーベルでないと先がない、とさえ感じた。リアルな話、例えばメジャーに行って月に1人当り10〜15万円くらいの給与をもらうとすれば、経費としては1カ月にバンドやマネージャーの稼働で最低でも50万円以上、1年だと600万円、2年で1200万円は黙っていてもかかる。実際はレコーディングもあるし、ツアーも回るし、グッズも作るからもっともっとかかる。もちろん人気が出ればその分儲かるわけだけど、当然ながらレコード会社やマネージメント会社は、ポテンシャル込みでバンドがそれ以上の収益を上げられるか、てんびんに掛けているわけです。僕らは実績を見ると、今言ったくらいのラインはクリアできるから、どうせなら全てコントロールできたほうがいいだろう、と思ったんです。
伊藤
でもメジャーとインディーズって音楽制作の部分でも、そんなに変わるものなんですかね。
夏目
インディーズはインディーズで自主制作から会社までグラデーションがあって、例えばP-VINEくらい大きな会社は、本当に自主制作で活動している人からすれば、メジャーに近いと言えるよね。つまりスタッフがいて、録音にも宣伝費にもある程度お金も掛けられるって、システムとしてはもはやコンパクトなメジャーじゃない? そこで一つ問題だと感じているのは、インディーズも本来あるべきメジャーに取って代わる新しい存在ではなくて、結局メジャーの作ったシステムに乗っかることしかできなくなっている、ということ。だから僕らは自分たちの知名度を上げることも大切だけど、常にオルタナティブな道を見つける努力も続けていかなきゃいけないと思う。
芸術の価値、生きる意味、生活・・・バンド活動ってどういうものなのか
伊藤
僕らはまだ、自分たちにとって音楽活動がどういう意味を持つのか、明確には見つけられてないんですが、やっぱり一般的な社会の価値観に従うのは嫌なんですよね。僕は会社員をしていますが、仕事で分かりやすい成果を挙げていくことだけが人生だとは思っていない。「むしろバンドの方が、本当の人生だ」と感じるところがある。明確な目的がないからこそ、何かを手に入れても次の何かを手に入れたくなるじゃないですか。人生には「よく分からないまま高みを目指し続けられるもの」が必要だと思うし、僕にとってはそれがバンドなんだと思うんです。
夏目
よく分かる。アメリカのインディーズロックバンド「Wilco」のドキュメンタリーの冒頭でマネージャーが「バンドには二つの社会的評価が与えられる。それは経済的評価と芸術的評価だ」って話すシーンがあるんですけど…。僕らの場合、バンドで生活しないといけないから経済的評価にシビアになる部分はあるけど、一方でそれに縛られずバンド自体を「集団を作ったときに、その中で人がどれだけ自由でいられるかの実験」というふうに考えている。表現はもちろんそうだけど、「芸術」と「経済」だったり、「自由」と「ルール」のせめぎ合いが、バンドをやっていて一番面白いところかな。
伊藤
音楽好きの間で“いい曲”とされているものが今の音楽チャートで1位になることって、ほとんどないじゃないですか。売り上げとか分かりやすい指標も大事だけど、作品そのものの本質的な価値…つまり芸術的評価って永久に分からないんですかね。
夏目
まさにそこが、ポップスの面白いところで、実は売り上げって一つの音楽的評価と捉えられる。例えば「お年寄りに優しくしましょう」というキャンペーンをやったら、電車で席を譲る人が去年より倍に増えた、っていうのは分かりやすい数字的な評価だけど。一方、映画のワンシーンなんかで、自分のおばあちゃんのことが恋しくなる場面があるだけで人は変わるし、席を譲ることにもつながる。心の動きって強いし、単に言葉で伝えられるより残るから。そういうのを芸術的評価というのかなって。もちろんそれって、効果の持続する期間とかも考えると、単に数字だけで判断できるものじゃない。ただ逆に言えば売り上げは「これだけの人たちに影響を与えた」という意味で、一つの音楽的成果とも考えられるんだよね。実はこれ、在学中に習ったことなんですけど。意外と自分の芯になってるなあ。
伊藤
影響を与える、というのはありますよね。例えばある文章が読み手に対して「これは自分のために書かれたものだ」と思わせたら、その書き手は一流だと聞いたことがあります。確かに、そうやって心に影響を与えたものって、なかなか消えないですもんね。
始まった“バンドブーム”とそれぞれ「続けることが、最善を尽くすこと」

――ここ最近、波に乗っている若いインディーズバンドが出てきてると思うんですが、その辺りはどのように感じていますか? 伊藤さんはまさにその渦中ですよね。

伊藤
身近にも、それこそメジャー以上に売れている人たちがいますが、何よりバンドが大量発生していると思いますね。僕らとしては、もっとアイデンティティーを確立しないといけない、と思っています。
夏目
GREAT3の片寄明人さん(ミュージシャン)にも言われたんだけど、今って確実にバンドブームだよね。僕としてはこれが一過性で終わらないように「みんな、辞めないで」と思っている(笑)。それこそ学校は、分かりやすく進級していくじゃない。でも社会人になると…バンドなんかは特にそうだけど、“進級”が難しくなるばかりか、現状維持ですら厳しくて。例えば、お客さんが100人いるバンドでも、3年たってまだ100人のままだったら、落ち目に思われちゃうのがこの世界だから。実際ずっと100人集めていられるのは、すごいことなんだけどね。それぞれが「どうやったら活動を続けられるか」を必死に考えれば、自分たちの居場所は、もっと増えていくと思うんですよね。
伊藤
やっぱり、続けていかなければ、ということですよね。いい状態を保ってバンドを続けることこそが、最善を尽くすことなんだと思う。
夏目
まあ、ずっとそういう気持ちでやってきたんだけど、個人的には「そろそろビックマネーをつかみたい!」という思いもあるけどね(笑)。
伊藤
そうじゃないと、実際辞めちゃいますもんね(笑)。でも芯のところは、芸術的評価を信じ続けるしかない。ずっと売れ続けるバンドもいるにはいるけど、彼らもきっと売れていること自体に満足してるわけじゃなくて、芸術的評価の充足感を求めていると思うんですよね。だからモチベーションのメインをそこにできたらいいかなって。
夏目
ライブをする度、作品を作る度に「もっとこうしたい!」という欲が出て、やってみたら確実に良くなっていくからね。で、今度こそ「もっと多くの人に届くんじゃないか」って、その繰り返し。もしそういう想像力がなくなったら、辞めるかもしれないですね。

――モチベーションの話が出たので、実制作についても伺いたいのですが、作品のインスピレーションは何から得ていますか? また具体的にはどんなふうに作られているのですか?

夏目
常にどういうことが曲になるだろうと考えているから、インスピレーションは本当にどこからでも。具体的な作り方については…これ、奥田民生(ミュージシャン)さんの受け売りなんですけど、大事なのは、仮に何も出てこなくてもヘコまず、ワンフレーズでも60〜70点でもいいから、毎日作り続けること。ずっと100点ばかり狙っていても、一生曲はできないから。そうしたら、たまにマシなものができる。あと意外とできるときは一瞬なので、あんまり作ることばかり考えずに、一日の内に机に向かうことだけは決めていて、いい“バイブス”のときに一気に出す。
伊藤
作り方は僕も似ていて、インスピレーションは生活の全てからなんですけど、詩が好きなのでよく読みますね。実は僕、詩人になるという野望があるんですよ。だからかは分からないですけど、自分の中でいいものが出るときは、曲よりも詞から先に作るパターンが多いです。歌詞ということは意識せず、思いついたらノートに詩を書きつけています。
夏目
作る曲がシングルなのか、アルバム用なのかによっても違うよね。(オリンピックの)柔道を見ていて思ったんだけど、シングルは一本取るような大技だけど、アルバムには寝技のような渋い曲もあったほうがいい。
伊藤
僕らは今、バンドでは初めてのZINE(自主制作本)を作りつつ、次のアルバムで柱になるような曲を書きたくて試行錯誤中なんですけど、さっきの“100点の曲”という話で最近思うことがあって。曲のアレンジを考えていると、“ロマン主義”に陥るというか、100点以上の全く新しい手法とか求めてしまう傾向があるんですよね。曲の最後でもう1回驚くような展開を入れようとか。最近はそういう表層的なロマンチックさはなるべく排していこうと思っています。
夏目
自分たちを信じる一方で、批判的であった方がいいよね。「隣の人を疑え、さらに自分を疑え」と。大学ではそういう精神を学んだ気がするし(笑)。
伊藤
はい(笑)。でもやっぱり、社会に出ると成果を求めない活動はやりにくくなるから、特に学生のうちは盲目的に、成果を求めない活動をしてほしいですよね。実現が難しく、目に見える成果がないことにこそ、試行錯誤してみる価値があると思うんです。
プロフィール
シャムキャッツ 夏目知幸
千葉県出身。2008年、政治経済学部卒業。東京を中心に活動するオルタナティブ・ロックンロールバンド、シャムキャッツのボーカル&ギター。バンドは8月10日に自主レーベルTETORA RECORDSより最新シングル『マイガール』発売。11月より「ワンマンツアー 2016-2017“きみの町にも雨は降るのかい?”」を開催する。弾き語りなどソロ活動も積極的に行っており、個人名義でのアルバムを現在製作中。
http://siamesecats.jp/

Taiko Super Kicks 伊藤暁里
福岡県出身。2015年、国際教養学部卒業。東京都内を中心に活動中のロックバンド、Taiko Super Kicksのボーカル&ギター。バンドは、2015年7月にFUJI ROCK FESTIVAL'15「ROOKIE A GO-GO」に出演。同年12月にファーストアルバム『Many Shapes』をリリース。2016年より、ソロ活動も積極的に行っている。
http://taikosuperkicks.tumblr.com/

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