Waseda Weekly早稲田ウィークリー

#STYLE #from #WASEDA #Fashionista #live #talk #人生 森永邦彦×シトウレイ×木津由美子 鼎談<後編>「ファッションは世界を拡張する」 

ガラパゴス化、SNS、VR……ファッションの新たな潮流とは

「早稲田で、ファッション特集!?」と、『早稲田ウィークリー』編集室内でも物議を醸した今回の特集。2014年にパリコレデビューを果たし、テクノロジーを取り入れながら新たなファッションを提示するブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」を主宰する森永邦彦さん。2008年に立ち上げたファッション・ブログ『STYLE from TOKYO』で原宿や表参道などを闊歩(かっぽ)する人々のファッション・スナップを発信し続け、海外からも注目を浴びるファッション・フォトグラファー/ジャーナリストのシトウレイさん。そして世界初の女性ファッション誌として1867年に米国ニューヨークで創刊された『Harper's BAZAAR (ハーパーズ バザー)』の編集長代理を務める木津由美子さんというお三方に集ってもらい、現在の輝かしいキャリアに至るきっかけなどを伺いました。後編では「日本と海外との文化の違い」や、ここ数年停滞感の漂っていたファッション業界に見え始めた「新たな兆し」について。そして「ダサいとたたかれがちな(?)」早大生への、メッセージをいただきました。

左から、シトウレイさん、森永邦彦さん、木津由美子さん

――シトウさんはホームグラウンドを日本に置いて、原宿や表参道の若者たちを撮影し、それが海外からも高く評価されています。日本のコンサバティブな側面とは異なる一面が、そこには映し出されているような気がするのですが。

シトウレイ
(以下、シトウ)
日本のストリートファッションって「ガラパゴス化」しているというか、特別なんですよね。例えば、パリの若者より東京の若者の方が断然オシャレだったりする。特に10代は顕著です。洋服が大好きで、情熱を持っていて、一風変わった格好をする子って、海外ではそこまでいないんですが、日本はある程度いたりする。それに、日本のストリートと世界的なトレンドはちょっと違っていて、いい意味でも悪い意味でも、自然とストリートから上がってくるトレンドや、大きなトレンドを受けて、それをこの街流にカスタムするような流れがあると思います。

例えば、厚底靴や、あみあみのタトゥーチョーカーが流行っていたけど、これらはコレクション発信のトレンドではないから、海外から見ると「何コレ!」って感じになる。見たことがないから、面白がってくれるのかな、という気がします。

シトウさんの最近のストリートスナップ。
「これはジャパンファッションウィーク、99%is-のショーの後に撮らせてもらったもの。
デザイナー自身がパンクスなので、来ている人達もパンクスの人がたくさんいました」(シトウ)

――ストリート発信のトレンドの強さも感じますが、「Instagram」などのSNSによって、トレンドの伝播(でんぱ)の仕方も変わってきたように感じます。これまでは、パリコレなどのファッションショーでブランドが発表し、モード誌が発信してきたものが、より個人に下りてきたというか。

木津由美子
(以下、木津)
すごく難しいですよね。個人が発信力を持ったのはとてもいいことなんだけど、危険だなとも思っていて。個人がなんでも発信できれば、その中に面白いものがあるかもしれない。けれども、責任を持たずに発信することは、危険もはらんでいる。一次情報と二次情報の境目すら分からない人がほとんどで、そういう人が発信していることには危機感を持っています。

特に私はビューティを専門にしているから、「DeNA」のようなキュレーションメディアの問題は象徴的だなと思って。だからこそ、一次情報の価値はますます高くなるでしょうし、伝える側の責任の重みは増しているなとも感じます。

――メディアだけでなく、ブランドも情報発信により自覚的になっていますよね。最近では、英国ブランド「BURBERRY(バーバリー)」がシーズンを先取りするコレクション発表を廃止し、販売時期と発表を合わせる改革を行いました。森永さんもコレクションを「AR(拡張現実)」で発表したり、BGMに「バイノーラル(その場にいるように立体的に感じられる)音源」を採用したり、発表方法を意識されていると思うのですが。

「ANREALAGE」の2016年春夏コレクション。
このコレクションでは、光が反射すると色や柄が現れる、
という斬新なデザインで多くの反響を呼んだ。

森永邦彦
(以下、森永)
時代の変化に応じて、発表方法も変化していくべきだと思っています。バーチャルな世界がリアリティを持てば、その中でどうファッションを表現できるかを考えます。昨年、スマートフォンのフラッシュ撮影でしか見ることができないコレクションを発表しましたが、それらも画面の中のファッションがリアリティを持ち始めたことにより、発表したものです。

テクノロジーを使うことで、エンタメ的なアプローチはありつつも、服本来の在り方を見直す時期になってくるんじゃないかと思っています。もちろんテクノロジーを取り入れることは「武器がどんどん増えていく」ような感覚で、楽しいんですよ。けれども、そういった仮想空間と、実際の服という物体そのものには線を引いていて、洋服、ファッションそのものをいかに「憧れ」の対象にするか、ということは考えています。
ファストファッションがもたらした均一化と「ユースカルチャーの復興」
シトウ
確かに「ファッションが元気ないよね」みたいな流れがけっこう長い間続きましたけど、去年くらいから急にブレイクポイントが現れてきましたよね。(世界でも)10代が急にオシャレになったんですよ。

こないだパリコレに行ったとき、「かわいいな」と思って撮影した女の子がいたんですけど、よくよく見たら幼いなって。「いくつ?」って尋ねたら「14歳」って言うんです。あと、すごくカッコよく「BALENCIAGA(※バレンシアガ。1918年創業のフランスのラグジュアリーブランド)」を着こなした男性も、よくみるのニキビが顔にたくさんついたティーンのキッズだったり、東京でも中学生くらいの華奢(きゃしゃ)な男の子が「OFF-WHITE(※オフ-ホワイト。2014年デビューの米国新鋭ブランド)」を着て、すごくかわいかったり……しかも、彼らのファッションに対する思いがものすごく熱い。純粋に「オシャレ大好き!」みたいな。今までは10代後半から20代の子が頑張ってバイトしてハイファッションを着ていたのを、まだ親に洋服を買ってもらうような世代の子が「親に着せられてる」んじゃなくて「自分でBALENCIAGAを着たい!」と思って着ている。
そういう子がいるのは面白いなって。きっといい意味で、ネットの影響なのかと思うんですよね。昔だったら「ローティーンが『VOGUE』を買う」なんてハードルが高かったけど、今はスマホで、マンガを読むのと同列で、ぱぱっと一流ファッションに触れられる。一番多感なときに世界中からオンタイムの情報のシャワーをたくさん浴びられる環境にあるから、ファッションもネイティブで気負いなく自然に楽しむことができて、早くに花開き始めているのかな、という気がします。

――しばらくノームコア(※自然体で普通の着こなしを良しとするファッション)の隆盛が続いていて、抑制されていた空気が反作用しているのかもしれないですね。

シトウ
もしくは、昔の森永くんみたいにピュアに、真っさらな状態でいきなりものすごいクリエーションと出会って、「初めてドラゴンボールを見た」ときの感動と同じような衝撃が(笑)、ファッションでも起こっているのかもしれませんね。そういう子たちは、ファッション好きになるきっかけがファストファッションとかじゃなく、いきなりハイエンドなクリエーションだったのかなって。

――ファストファッションも若者たちにとっては、ありふれたものになっていますもんね。

シトウ
均一化している気はしますね。昔はファッション偏差値30から75みたいにいろんな人がいたのが、ファストファッションのおかげで45から55の層は増えたけど、30の人も75の人もいなくなって……みたいな。街を撮っていると、そう感じます。「いい感じに」オシャレな人は増えたけど、「とびぬけて」オシャレな人はいない。昔、本当に変な格好の人もいたのに、最近は少なくなってしまったから、それはちょっと撮ってて物足りないと感じるところはあります。
木津
そういう時代が長かったから、それに飽きた若い子たちがポーンと出てくるサイクルなのかも。ユースカルチャーが復権してきた、というか。やっぱり、どう考えても「みんな一緒に見える」って、退屈だと思うんですよ。
でもこれはおそらく、バブルでバカ騒ぎしていた世代を見て、「うわっ、トゥーマッチだ」って思っておとなしくしていた世代がいて、さらにそこに退屈さを感じる若い世代がまた別のところへ行く……っていうサイクルなんでしょうね。でもさ、リアルクローズ(※デザイン性より実質的に価値のあるシンプルな服≒ノームコア)な時代って、面白くないと思うんだけどなあ。「何それ、ファッションなの!?」みたいな。
シトウ
「どこに面白さを見出してその服着ているの? ……みんなシンプルでこざっぱりした服を着て、何でそんなにサードウェーブコーヒーとかが好きなの?」っていう(笑)。でも、揺り戻しが来るのも面白いですよね。

――そうやって考えると、森永さんにとってはすごくいい波が来ているのかもしれないですね。

森永
「冒険」したいですね。あと、1カ月ですけど……今回は前回以上に冒険していきたいと思っています。
木津
あぁ、そうじゃん!今まさにパリコレの準備の真っ只中で、忙しいんじゃない?いつからでしたっけ。
森永
2月28日から始まるんですけど、まさにその初日ですね。時間は午後5時(※現地時間)で決まりました。場所はまだ、どこにするか迷っているんですけど。
「早稲田のファッショニスタ」は少数派?“今”だからこそ「足で稼ぎ、自分で見つけよ」

――皆さんのように、早稲田大学出身でファッション業界にいる方は、割と少数派なのではと思うのですが……。

木津
うん、私の周りは全然いない。
シトウ
そうなんですか?。私、周りの友だちに限らず、早稲田の友だちがみんなファッション業界にいるので、多いのかと思っていました。
森永
僕らの世代は、特に多いんですよね。
木津
私、このテーマを見たときにすごくびっくりしたんですよね。「『早稲田ウィークリー』でファッションってありなの!?」って。

――だいぶ変わってきているとは思いますけど、やはり他大学に比べて「バンカラ」「たくましい」など、ファッショナブルからはほど遠いイメージが強いのは事実かもしれませんね……。何かと逆風の多い「ファッション業界を目指す早大生」に伝えることがあるとしたら、どんなことでしょうか?

森永
僕の一番の強みは、ずっとファッションを続けられたことだなと思っていて。学生時代、レイちゃんとこんなふうに、会ったり話したりする機会はなかったんですよね。でもそのとき、一緒にファッションを志す人はいて。やっぱり業界も狭いので、どこかで出会うタイミングがあって、今、こうして関係を築けました。ファッションを続けるのは難しいと思うんですけど、やっぱり「継続は力」だと思います。
木津
さすが。私には言えない、その言葉(笑)。
シトウ
私は「まずファッションを楽しんでください!」っていうことでしょうか。 あまり頭でっかちに「こうあるべき」と考える必要はないし、頭で考えるよりは、自分の心が「楽しい」って思う方向を選択していけばいいんじゃないかなと思います。私もまぁ、流されて。楽しい方向に、面白い方向に……って行ったら、今こうなった感じですから。
木津
そういうの、大事。私は『VOGUE』の後また人に誘われて『marie claire(※マリ・クレール。1937年フランス創刊のファッション誌)』に移ったんです。でもリーマン・ショックや本国との複雑なライセンス契約の関係で、2009年に休刊を余儀なくされて。「失業保険もらいながらゆっくりしよう!」なんて考えてたんだけど、リーマン・ショックの余波で残業禁止令が出ていた友人から「暇だったら、一緒に早稲田のビジネススクールを受けません?」って誘われて。たまたま大学時代の同級生も通ってたもんだから、「まぁ、いいか」みたいな感じで受験したんだけど、私だけ受かっちゃったの(笑)。
シトウ
記念受験のつもりだったんですか?
木津
ほら、よくあるじゃない?「オーディションで付き添いが受かっちゃった」みたいな。でもせっかくだから行ってみるか、って。授業料を払わないといけないから、昼間はフリーランスで仕事しながら夜は学生……もう、死ぬかと思った! 二度とできません(笑)。課題もたくさん出されるし、すでに経営学や経済学を学んでいる前提で講義が進んでいくから、私は仕事でマーケティング事例には事欠かないとはいえ、財務計算なんてできないし……本当に苦労しました。2012年に修了して、『Harper's BAZAAR(ハーパーズ バザー)』の立ち上げに携わることになるんだけど、さすがに引き出しが増えたというか、物事の見方や角度はやはり変わりましたね。

木津さんが編集長代理を務める、ファッション誌『Harper's BAZAAR』。
150年の歴史を誇る、世界初の女性ファッション誌。

木津さんのフリーランス時代のお仕事。
『VOGUE CHINA』 (2012年6月号)から依頼されて制作した
資生堂創業140周年記念別冊付録。

木津
最初から「ファッションやります」といってオタク的に深く突き詰めることも一つの方法だけど、引き出しをたくさん持つこともやっぱり大事。海外のメイクアップアーティストとよく仕事をするんだけれど、彼らって日本みたいにメイクアップの専門学校に通っているわけではなく、美術大学出身だったり、全く異なる分野出身だったりするの。デザイナーを目指していてバックステージが面白かったからメイクアップの道に進んだりとか。

だから技術的にいえば、日本のメイクアップアーティストのほうがレベルが高かったりすることもあるんだけど、実は海外ではそういう人たちがコレクションをリードしていたり、化粧品会社と契約してビジネス的に成功していたりする。彼らが面白いのは、時代を問わずアートや音楽や映画に精通していて、それらからインスパイアされて、新たなコンセプトにつなげられるからなんです。狭い世界に閉じこもると、その人自身のオリジナルな感性がなかなか形にできない。「引き出しを増やす」「感銘を受ける」って、若いうちだからこそできることもたくさんあるから、どんどん世界を広げていってほしいですね。

――大人になるまでなかなか実感できないんですけど、「学生時代だからできること」って、ありますよね。

木津
ましてやこの時代、あらゆる情報をいかようにも受け取れるんだから、これほどいい環境はないですよ。ただ、デスク上の情報だけに頼ってほしくはないですね。自分で見つけたことにこそ、価値がある。
シトウ
うん、そうですよね。ちゃんと足で探す事を大事にしてもらえたらなって思います。知っているのと経験するのとでは、全く違いますもん。ファッションは食べ物と一緒なんです。食べないと味が分からないのと同様、着ないと分からないことがたくさんある。
森永
洋服って、100年以上も作り方の変わらない、とてもアナログなもの。触れてみて分かることがたくさんある。「洋服を着る」ことも、みんな毎日当たり前にする行為ですよね。でもお気に入りの服一着で、普段の景色が全く違うものに見えることってあると思います。
ブランドのコンセプトでもありますけど、僕は日常の中で洋服を使って“非日常”を演出したい。洋服ってこんなに身近にあるもので、日常を変化させる唯一の手段だと思うんです。僕はファッションでしたけど、大切なのは“自分にとっての正解を探す”こと。皆さんも、目指すべきところは、最初は輪が小さくても、“誰かにとって特別な存在”になる、ということだと思います。
プロフィール
森永 邦彦(もりなが・くにひこ)
ファッションデザイナー。1980年、東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。バンタンデザイン研究所卒業。2003年「ANREALAGE」設立。ANREALAGEとは、A REAL-日常、UN REAL-非日常、AGE-時代、を意味する。日常の中にあって非現実的な日常のふとした捩れに眼を向け、見逃してしまいそうな些事からデザインの起点を抄いとる。「神は細部に宿る」という信念のもと作られた色鮮やかで細かいパッチワークや、人間の身体にとらわれない独創的なかたちの洋服、テクノロジーや新技術を積極的に用いた洋服が特徴。2005年、ニューヨークの新人デザイナーコンテスト「GEN ART 2005」でアバンギャルド大賞を受賞。同年、06S/Sより東京コレクションに参加。2011年、第29回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。2014年、15S/Sよりパリコレクションデビュー。2015年、フランス服飾開発推進委員会主催の「ANDAM fashion award」のファイナリストに選出。2016年、南青山にANREALAGE AOYAMAをオープン。
「ANREALAGE」 http://www.anrealage.com/
シトウ レイ(しとう・れい)
日本を代表するストリート・スタイル・フォトグラファー、ジャーナリスト。
国内外のストリートスタイルを紹介するサイトSTYLEfromTOKYO主宰。
毎シーズン、世界各国のコレクション取材を行い、独自の審美眼で綴られる言葉と写真が人気を博している。ストリートスタイルの随一の目利きであり、「東京スタイル」の案内人。
また彼女自身のセンスもストリートフォトグラファーの権威「The Sartolialist」の著書で特集を組まれる等ファッションアイコンとしても活躍中。
ストリートスタイルからランウェイまでファッションに対する幅広い知見から 企業のアドバイザー、商品プロデュース、ファッションセミナーなど ジャンルを超えて活動の幅を広げている。
著書:
東京ストリート写真集「STYLEfromTOKYO」(discover21刊)
東京ガイド「日々是東京百景」(文化出版局刊)
『STYLE from TOKYO』 reishito.com
木津 由美子(きづ・ゆみこ)
『Harper's BAZAAR(ハーパーズ バザー)』編集長代理。静岡県生まれ。1987年、早稲田大学第一文学部卒業。航空会社、出版社、化粧品会社を経て、1998年日経コンデナスト(現・コンデナスト・ジャパン)に入社し、『VOGUE NIPPON』(現・『VOGUE JAPAN』)のビューティ・エディターに就任。2003年アシェット婦人画報社に入社し、『marie claire(マリ・クレール)』のリニューアル創刊に携わる。2009年フリーランスエディターとして独立後、2013年ハースト婦人画報社で『Harper's BAZAAR』を創刊。2014年から現職。2012年、早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程(MBA)修了。修論テーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察 -プロダクトにみるラグジュアリー構成因子-」。
『Harper's BAZAAR』 http://harpersbazaar.jp/
Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/weekly/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる