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俺たちかなり自由じゃないか 思うままにやれよ早大生 風間 杜夫

「早稲田小劇場どらま館」早稲田演劇人インタビュー Vol.2

“演劇とは、自分が生きている実感を得られる場所”

俳優として数多くの舞台、映画、テレビドラマに出演するほか、声優や落語家としても幅広く活躍する風間杜夫さん。出世作の映画『蒲田行進曲』に始まり、一世を風靡(ふうび)したドラマ『スチュワーデス物語』、ジブリアニメ『風立ちぬ』、最近では小泉今日子さんとの共演で話題になった舞台『家庭内失踪』など、数々の作品で名演技を披露しています。
そんな風間さんは、かつて鎌田薫早稲田大学総長も在籍していた学生劇団「自由舞台」の出身でした。学生時代のこと、駆け出し時代のこと、演劇に対する考え方など、さまざまなお話を伺いました。

──早稲田大学に入学したきっかけは?

僕は中学・高校と東京の玉川学園という学校に通っていて、そのまま付属の玉川大学に進学するつもりだったんですよ。当時は学園紛争の時代だったんですが、“玉川楽園”と呼ばれるくらい穏やかな学校で、いいところなんだけどちょっと物足りない部分もあった。早稲田大学には何度か芝居を観に行ったことがあって、その騒然としたキャンパスに魅了された。一浪までしてそんな憧れだった早稲田に入学しました。

「自由舞台」に入りたいというのも、早稲田を志望した理由のひとつでした。僕はかつて児童劇団で子役をやっていて、将来も舞台をやりたいという思いがあった。俳優の養成所に入るか、玉川大学を卒業してどこかの劇団に入るという道もあったのですが、伝統ある早稲田の劇団からスタートしたいと思い、入学後すぐにその扉をたたきました。

ところが、僕が入学した1969年というのは、翌70年に日米安全保障条約の延長に反対する「安保闘争」が起こるなど、ちょうど学生運動の盛り上がりがピークに達した頃だったんですよ。1年生のときに自由舞台の『あの日たち』という公演があって、その稽古も一応やってはいたのだけど…大学生活はほとんどデモに明け暮れているという日々だったんです。

──その公演を最後に、自由舞台も幕を閉じてしまったそうですね。

先輩たちはよく「これからは芝居をやる時代じゃない、街頭に出て声を上げよう!」と言っていました。それで劇団を閉じたんだと思います。『あの日たち』ではチョイ役できたが、一応、最後の作品に出られてよかったかな(笑)。その後、1年生だけで自主公演をやったんですが、夜中に部室まで先輩が乗り込んできて「今は芝居をやるときじゃない!」なんてアジ(アジテーション)を書かれてしまった。床も壁も真っ黒く塗られた部室だったんだけど、そこに白いペンキででかでかと…。とにかく、自由舞台は過激な集団でしたね。

あの頃の学園紛争というのは、要するに「自由」をめぐる闘争だったんですよ。僕もデモに参加していたんだけど、あるとき機動隊に捕まっちゃって、護送車で警察署まで連行されたことがあった。そうやってとらわれの身になって車から街並みを眺めていたとき、ふと思ったんですよ。「自由をよこせと騒いでいたけど、俺たちかなり自由じゃないか!」って。何せ、デモに行く以外はずっと仲間とジャズ喫茶や雀荘にたむろしていたからね。「自由を謳歌(おうか)して好きなことやれているのに、何で俺は拘束されちゃったんだろう」って(笑)。

──その後はどのように演劇を続けられたのですか?

十数人の役者仲間で「表現劇場」という劇団を立ち上げました。1971年、大学4年の頃です。その中には後にコントユニット「シティボーイズ」を結成する大竹まこと、斉木しげる、きたろうもいました。当時はとにかくお金がなくて、劇団の集会所として借りていた8畳のアパートに大竹・斉木と3人暮らしをしていました。

「表現劇場」時代の風間さん

僕は落語をやるとき、枕(演目の導入部分)に当時の話をよくするんだけど、当時アルバイトで仮面ライダーショーをやっていて、地方を回っていたんですよ。着ぐるみを身に着けて子どもたちの前でショーを見せるんですが、僕がライダー、斉木がショッカー(敵役)の親分、きたろうがその部下をやって。大竹は着ぐるみが大嫌いで、しかも彼は要領がいいから、マイクを使って会場の子どもたちに「今日はお前たちの中の一人をさらっていくから覚悟しろ!ヒッヒッヒ」などと言って脅かすという、一番楽な仕事をやっていた。

仮面ライダーは主役だから楽かなと思っていたんだけど、ショーが終わっても僕だけ仕事が残っていました。それはサイン会で、多いときは1,000人の子どもにお面をかぶったまま仮面ライダーとしてサインしていた。なのにバイト代は全員一緒(笑)。

──まさに“青春時代”という感じがして、なんだか楽しそうですね。

お金はなかったけど楽しかったですね。でも肝心の演劇活動の方はなかなかうまく行かなかった。というのも、「表現劇場」は役者ばかりの集団だったんですよ。劇団というのは突出した劇作家・演出家がいて初めて成立するもので、民主的なものであるわけがない。役者ばかりだとやりたいことの方向性がばらばらで、いろんなことを話し合いながら公演も何度か打ったけど、結局3年ももたなかったですね。

1979年「広島に原爆を落とす日」(つかこうへい作品)

そして、ちょうど表現劇場に限界を感じていた頃に出会ったのが、演出家のつかこうへいさん。僕はその後、つかさんに引っ張り上げてもらって、20代後半から30代前半まで、ずっとつか作品に出演させてもらいました。

つかさんの芝居はものすごいブームを巻き起こし、キャパシティー400人の紀伊國屋ホールに700人も入って、通路も座席の周りも観客でぎゅうぎゅうだった。今は消防法で禁止されているけど、当時はドアも閉まらないくらいだった。つかさんとの出会いは僕の人生の大きな転機でしたね。

──そんな風間さんにとって、仕事をしていく上で大切にしていることとは?

基本的には興味が湧けば何でもやってみるというスタンス。例えば2005年に阿佐ヶ谷スパイダーズの『LAST SHOW─ラストショウ─』という舞台に出演させてもらったんですが、作・演出の長塚圭史に声を掛けてもらったときは、彼の作る芝居をほとんど知らなかった。でも「何か面白そうだな」と思って飛び込んでみたら、すごく刺激的でした。

2015年「熱海殺人事件」(つかこうへい作品)

2015年「熱海殺人事件」(つかこうへい作品)

他にも木村光一、岩松了、三谷幸喜、いのうえひでのりなどいろんな演出家と仕事をしてきましたが、それぞれ異なる演出スタイルの中で、言葉の端々からその世界観をつかんでいくプロセスが楽しいですね。

今はわりとずうずうしくなったけれど、これでも若い頃はナイーブな青年で、「社会とうまく関わっていけるだろうか…」という不安がありました。

でも、演劇という虚構の世界だと自在になれたし、何かの形を借りれば自分というものをうまく表現できた。僕は自分が生きている実感を得られる場所として演劇を選んだし、それは今も変わっていません。これはうぬぼれで言うわけじゃなく、役者は僕の天職だと思っています。まあ、役者以外じゃ通用しないってだけなんだけどね(笑)。

 

──最後に、早稲田で演劇を志す学生にメッセージをお願いします。

「思うままにやれよ」かな。一つ言えるのは、大学や学生演劇って「面白いやつらとたくさん出会える場」だということ。昨日まで受験勉強にかじりついていたやつが、やっと解放されて演劇をやるんだから…そのエネルギーと言ったらすごいわけです。

ただ、みんな演劇と生活をどう折り合いをつけていくか、どこまで持続していけるかが大きな問題ですね。僕の周りでも演劇から離れざるを得なくなった人も少なくない。食べていくため、家族を養っていくため、いろんな試練が待ち構えていると思います。

でも、早稲田には“どらま館”や演劇博物館という場もある。せっかく恵まれた環境があるのだから、それを大いに活用し、好き勝手に打ち込んで、新しい作品を作ってほしいですね。

 

風間 杜夫(かざま もりお) Profile

1949年、東京都生まれ。8歳のころから児童劇団に入団し、演劇を始め、少年雑誌の表紙を飾るほどの人気子役に。13歳のときに劇団を退団後も玉川学園、早稲田大学で演劇を続ける。

1982年『日本アカデミー賞』最優秀助演男優賞(蒲田行進曲)、2010年には『紫綬褒章』を受章など、多数の賞を受賞。

現在は俳優、声優として数多くのドラマや映画に出演。また、落語家役をきっかけに落語会を開催するなど、幅広く活躍している。

 

最近の作品

  • テレビ・ドラマ:「マッサン」、「ごめんね青春!」、「クロコーチ」、「八重の桜」、「X-ファイル」
  • 映画:「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」、「青天の霹靂」、「風立ちぬ(アニメーション)」
  • 舞台:「家庭内失踪」、「熱海殺人事件」、「ジュリエット通り」

 

関連リンク

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