3月20日 8:30 竹芝集合。到着すると既にチケットカウンターが長蛇の列であった。
10:00 出航。おがさわら丸は大混雑で、明らかに昨年世界遺産に指定された影響と思われた。例年であれば、狭い一室を学院用に指定してもらえるのだが、今回は2等の大部屋であった。ここも立錐の余地がないほどのぎゅうぎゅう詰め。出航直後、ミーティング。母島でのちびっこ科学教室の役割分担を決める。春先のおがさわら丸は特に冬型の気圧配置のとき、海が荒れて船が揺れる、と聞いていたがさほど揺れを意識することがなかった。

3月21日 11:30 父島二見港着、12:30 ははじま丸で出航→14:40 母島沖港着。小雨でしかも思ったより寒い。定宿の「つき」さんに荷物を置いたのち、ロース記念館へ。ここは小笠原の歴史を紹介する小さな博物館。司書の方が熱心に説明してくださった(上画像)。
16:00 母島役場でちびっこ科学教室の設営。この試みは、過去5年お世話になっている小笠原村に対し、何か還元できるものはないか、という思いから母島観光協会との相談のうえ、始めたものである。16:30 子供たちが集まって、科学教室の開始。今回のテーマは「目の錯覚」小五~中三の計6名の男女。中三の男子は今春都内の高校に進学するそうである。昨日船中で決めた役割分担に従って、講義を始める。そのうちに、テーブル越しに語り掛ける形になり、和気藹々と進んだ(右画像)。我々が行う通常の子供向け科学教室は教室で行うが、このような座卓を挟んで行う形式は相手に語り掛けやすく、机の形でも教育効果が違うことを発見した。
18:00 夕食
19:00 ミーティングで翌日の日程の確認。
20:00 クラブ・ノアで小笠原近辺のクジラの生態に関するレクチャー。これは、明後日に予定しているホエールウォッチングの事前学習である。

3月22日 6:00 散歩
7:00 朝食
9:00 本研修の主目的である桑の木山のフィールドワーク。桑の木山はその名の通り明治時代はオガサワラグワが繁茂する森であったが、戦前に薪炭材として移入されたアカギが猛烈な勢いではびこってしまっている。
12:00 観光協会に戻ってお弁当の昼食。
13:30 観光協会前のクジラのモニュメントでお決まりの集合写真撮影の後、徒歩30分ほどの御幸が浜へ。御幸が浜で貨幣石・オオイワガニ・ムラサキオカヤドカリなど見どころの説明の後、しばし自由行動。偶然、岩陰にいたウツボを生徒が発見し、そこにみんな集まったところ、オオイワガニに襲い掛かり捕食するショッキングな場面を目撃することができた。帰り道、広場でアイスクリームを頬張っていると科学教室に参加したタツヒロ君とエリコちゃんが通りかかり、しばしおしゃべり。
18:00 夕食
19:30 タツヒロ君から「太鼓の練習会に出るから見に来て」と誘われていたので、みんなで出かけた。聞くと、週2回母島観光協会のホールを使って、小笠原太鼓の教室を週2回開催しているとのこと。老若男女多数島民が集まり、小笠原太鼓の練習をしている。飛び入りの学院生たちにも丁寧に教えてくださった。手持無沙汰な学院生は、地元の小学生と一緒にクジラのモニュメントに登って遊んでいる。
21:00 太鼓教室が終わって外へ出ると、満天の星空。近くのビーチで寝ころびしばし星の鑑賞。
22:00 ミーティング。子供科学教室と桑の木山調査について、感想と改善案の意見を出し合う。

3月23日 6:00 散歩。
7:00 朝食。朝食後、学院生数人はエリコちゃんの登校を見送るために近くの母島小学校へ出かける。
9:00 船に乗り込みホエールウォッチングへ出発。出航して間もなくザトウクジラの群れに遭遇。ブロウ(潮吹き)・フリッパースラップ(胸鰭で海面を叩く)・テールスラップ(尻尾で水面を叩く)・ブリーチ(錐もみジャンプ、下左画像)などの動きの度に歓声が上がる。21日夜のレクチャーの効果があり、クジラの動き1つ1つが理解しやすい。その後、イルカを求めて蓬莱根(母島の南西海岸部分)へ。ここではハシナがイルカの群れに遭遇する。加えて見ることがほとんどないという交尾しているアオウミガメに遭遇する(下右画像)。一旦停止し、海中マイクを投じると、クジラとイルカの鳴き声を聴くことができる。鳴き声を聞きながらのドルフィンウオッチングは臨場感たっぷりであった。


12:30 観光協会でお弁当の昼食。
14:00 ははじま丸出航。太鼓に誘ってくれたタツヒロ君・エリコちゃんのお母さんがお別れにとハイビスカスの花を持ってきてくださった。髪飾りにし、汽笛が鳴った時に船上から海へ放るとまたその地に帰ってこられるという。エリコちゃんから「船の中で読んで」とお手紙をもらう。科学教室に参加した女の子から「みんなに」とタカラガイのプレゼント。船に乗り汽笛が鳴る。観光協会の大日方さんが臙脂のWを書いた紙を持って見送りに出てくださった。出航し、しばらく進むと堤防の上でエリコちゃんとその友達が手を振って見送っている。またしばらく進み、最後の堤防の上ではタツヒロ君が手を振って見送っている。船上では学院生も先生もみんな涙。科学教室での高々1時間が、翌日のおしゃべりと太鼓につながり、今朝ちょっと登校を見送って・・・科学教室が生み出した縁が学院生に与えた影響は大きかった。
16:10 父島着。小笠原村から記念品をいただく。毎年お世話になっている「たつみ」さんに荷物を置いたのち、水産センターで魚の観察(楽しみにしていたアカバの歯磨きは、アカバ君のご機嫌斜めで達成せず)。その後、少しの間自由行動でお土産の購入。
18:50 ナイトツアーに出発。最初はオガサワラオオコウモリの観察。今回は大変幸運なことに、間近にしっかりと確認することができた。しかも個体数が多い!次に、コペペ海岸で天然記念物のオカヤドカリの観察。気温が低いため、夏ほど個体数が多くはない。その後、満点の星を見ながら星座のレクチャー、最後に電波望遠鏡見学でこの日のメニューを終了した。
21:00 ミーティング。この日のプログラムについての感想と改善案。前日のプログラムと合わせ、「珍しい植物・動物に間近で触れていくうちに、自然の中に包み込まれていく自分を感じる」という感想があった。また科学教室に触れて、「人との些細なつながりが大きな感動を生んだ」ことへの驚きに触れた意見もあった。

3月24日 6:00 散歩、その後小笠原では「たつみ」さんの裏庭の干潟にだけ生息するベニシオマネキの観察。聞くところによると3.11の震災で津波が押し寄せ、床下まで浸水したそうだ。この干潟も被害を受けたが、なんとかカニは生き残った。日が照らないと出てこないそうで、残念ながら活動する姿は見られなかった。
7:00 朝食
8:30 ワークショップへ出発。例年、最終日は会議室を借りてレクチャーを受けているが、より効果的なプログラムにするために、今回から現地でのワークショップを行うこととした。予定では自然保護区南島が会場の予定であったが、おりしも発達中の低気圧の影響により高波で近づくことができないとのことで、急遽「小笠原諸島における種の分化」をテーマに父島の2か所で行うこととなった。大洋島であるハワがイや小笠原では1つの種が狭い地域ごとに多様に分化するという現象が見られている。ケーススタディとした植物は「オオバシマムラサキ」「シマムラサキ」「ウラジロコムラサキ」(大・湿性-小抵・乾性)、「オオミトベラ」「シロトベラ」「コバノトベラ」(低木亜高木-矮低木)である。同じ種でありながら、形状が大きく異なっていることに驚かされる。
12:30 父島のシンボル、イルカのモニュメントの前で恒例の記念撮影。
13:10 乗船。船中は行き以上に混雑。しかも発達した低気圧の中を通過するとかで、大分揺れることが予想される。
14:00 出航、恒例の小笠原村総出の見送り。船中に戻ってしばらくすると、次第に揺れが大きくなってくる。

3月25日 15:30 竹芝到着、解散

このような形で2011年度小笠原研修は終了しました。今回の研修での一番の収穫は、なんといっても母島における科学教室を仲介とした子供たちとの「縁」でした。この縁は短い時間でしたが、学院生・教員に深い感動を与えました。また、小笠原の植物・動物に対する知識はもちろんんですが、色々な方にお話を伺い、内地で生活していては知ることができない世界遺産指定と環境保護間の難しい関係について考えることができたのも学院生にとって大きな収穫だったと思います。このような機会を私たちに与えてくださった、母島観光協会大日方さん、ガイドの星さん、民宿「つき」さん・「たつみ」さん、タツヒロ君・エリコちゃん、科学教室に参加した他のみんな、太鼓教室の講師の方々、クラブノアさんにこの場を借りてこころから感謝申し上げます。ありがとうございました。