修了生の声
早稲田大学が私にもたらした幸運と経験
2009年1月20日、アメリカは大きな転換点を迎えた。バラク・オバマ氏が白人以外で初のアメリカ合衆国大統領に就任したのである。彼が就任したのは、アメリカをはじめとする世界が政治的にも経済的にも危機的な状況に置かれた時期であるが、その緊迫した状況がアメリカ社会に新たな変革を求めるうねりを生み出したといえる。そして、その期待は日本をはじめ各国に広がりを見せているのは周知の通りであろう。
その世界の分岐点となった日、現在ワシントンDCに居住している私は偶然が重なり就任式に招待される運びとなった。手短に決定までの経緯を話せば、私の祖父閔復基(ミン・ボクギ)は大韓民国の法務大臣や最高裁判所の主席判事を長年にわたって務め、アメリカの政界や法曹界にも人脈があったため、就任式への招待がなされた。しかし、昨年、祖父は逝去しており、新たにアジアからの法曹関係者を招こうと検討が加えられた際、現在、私が現地のジョージ・ワシントン大学にて法律(国際法やテロリズム、韓国法など)や日本文化等に関する授業を行っていることが伝わり、急遽、白羽の矢が立てられることとなったのである。元々、祖父が戦前、早稲田や東大で法学を学んだ経緯もあって、法律や日本の勉強を始めた私にとって、今回のような幸運は亡くなった祖父が残してくれた贈り物のように感じられた。
式典の内容は日本でもテレビ中継があったように、非常に厳かで、現在の状況を踏まえた思慮深い決意を伝えるものであったが、その会場における熱気は私が今まで感じたことの無いものであった。その熱気は、式場に向かう際にワシントンに移り住んだこの5年間では見たこともない数の群衆が街中に溢れていたことや、記念すべき日に参加することに喜びを感じている一人一人の表情から直に伝わってきた。そして、その熱気溢れる就任式直後、私は法曹関係者と共に短い間ながら、現在、研究を進めているテロリズムと人権侵害との関連についてオバマ大統領と話す機会も持つことができた。もちろん、それによって何が変わったという訳でもないだろうが、その翌日に大統領令として決定されたグアンタナモ収容所閉鎖に対する心理的な応援程度はできたのではないかと勝手ながら満足している。
私にそのような機会をもたらしたのは早稲田大学における経験であることは間違いない。現在、アメリカで教鞭をとっていると、研究者や学生と議論をする機会が多いのであるが、その際に、日本の学術の土壌に深く根付いている問題の背景への洞察や、一次資料に向かう姿勢は非常に有効であると感じる。日本においては多くの書籍などで欧米の研究者や学生に比べ、議論が下手であることがしばしば指摘されている。しかし、それは自らに自信がないだけで(日本ならではの謙譲の意識が強いせいかもしれないが)、言語を使いこなせれば、日本の多くの関係者が有する学問への姿勢はどこに出しても評価されるものである。そして、私のそのような議論に臨む姿勢は、一定の評価を受け、様々な授業の担当を依頼される要因ともなっている。
そして、GSAPSが持つ様々な分野の指導や刺激を受けることができる体制は、これもまた私の道を拓いてくれている。先述のように、私は様々な分野で授業を担当しているが、実際に専門である法律とテロリズムに関する研究のみに大学院生活を費やしていたならば、これは難しかったであろう。GSAPSには日本を代表する学内外の研究者が授業を担当しており、広い教養を身につけることができる。そして、学生も多様な背景を持っているため、ゼミをはじめとする日々の生活の中で気付かない内に自らの幅を広げることができる。確かに、専門性を高めることも重要であるのだが、実際に研究はもちろんのこと、様々な現場に出れば専門以外のことも要請される場合が多く、高いレベルの広範な知識は多く所で私を助けてくれている。
私は今、早稲田大学をはじめとした日本で学んだ学問への姿勢、語学の習得、広範な教養等が自らの道を拓き、多くの幸運をもたらしてくれることを実感している。誰がこの文章を読むのかを知ることはできないが、もし、貴方がGSAPSに入学することや、そこで学ぶことに迷いを感じているならば、是非それを打ち消し、自信をもって早稲田での日々を過ごしてくれることを私は期待して止まない。
