第一回早稲田大学坪内逍遙大賞授賞式・祝賀会

第一回早稲田大学坪内逍遙大賞授賞式・祝賀会(2007年11月19日)
第一回早稲田大学坪内逍遙大賞授賞式および祝賀会が、 2007年11月19日(月)リーガロイヤルホテル東京にて行われました。 授賞式は出版関係者、報道陣など200人以上が出席し、選考委員の沼野充義氏の祝辞に続いて、 白井総長から受賞者の二人に表彰状、メダル、賞金が授与されました。 (広報課プレスリリース)
受賞者
大賞:村上 春樹(むらかみ・はるき)
1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部(演劇専修)卒業。『風の歌を聴け』(1979)で群像新人文学賞を受賞し、デビュー。 『羊をめぐる冒険』(1982)で野間文芸新人賞、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985)で谷崎潤一郎賞を受賞。 『ねじまき鳥クロニクル』(1996)で読売文学賞受賞。 2006年、フランク・オコナー国際短編賞、フランツ・カフカ賞を受賞。 ノンフィクションに『アンダーグラウンド』(1997)、 『約束された場所で−underground2』(1998)があるほか、アーヴィング、カーヴァー、フィッツジェラルド等のアメリカ文学の翻訳多数。
村上春樹氏は1979年に『風の歌を聴け』によって鮮烈なデビューを飾って以来、 すでに30年近い作家としての経歴を通じ、現代文学の先頭を切って走り続けてきた。 『羊をめぐる冒険』、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、 『海辺のカフカ』などを初めとする数々の長短編によって同氏が現出させたハルキ・ワールドは、 現代小説の新しい可能性を大きく読者の前に開くものであった。
しかし、同氏の才能は、小説だけにはとどまらない。『アンダーグラウンド』、 『約束された場所で』といったノンフィクション作品では同時代の社会問題を深く洞察して圧倒的な存在感を示す一方で、 カーヴァー、フィッツジェラルド、サリンジャー、チャンドラーなどのアメリカ文学の翻訳でも独創的な仕事をし、 清新な訳文を通じて現代の日本語そのものに強い影響を与えた。質量ともに際立ったその訳業は、 作家の副業と呼ばれるべきものではとうていないだろう。
この驚くべき多面的な才能の持ち主をおいて、 坪内逍遙の業績を顕彰して創設された本賞の第一回受賞者はまず考えられない。 坪内博士も明治の日本にあって、同様に創作、研究、批評、翻訳などいくつもの分野で目覚しい才能を発揮し、 未来の文化を切り開いた存在だからである。
いまや村上氏の文学は日本のみならず、40ヶ国語以上に翻訳され世界中で愛読され、 同氏は世界屈指の作家の一人と広く認められている。 日本文学を21世紀の新たな世界文学の領域へと解き放ったこのような作家の業績を称え、 ここに表彰できることは、私たちにとって大いなる誇りでもあり、また喜びでもある。
奨励賞:川上 未映子(かわかみ・みえこ)

1976年大阪府生まれ。2002年、ビクターエンタテインメントより未映子の名前で歌手デビュー。 雑誌「ユリイカ」に詩を発表しながら、2006年随筆集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』を上梓、 さらに小説「感じる専門家 採用試験」を発表。2007年『わたくし率 イン 歯ー、または世界』が芥川賞候補となる。 CDアルバムに『夢見る機械』(2004)、『頭の中と世界の結婚』(2005)がある。
はじめての小説集『わたくし率 イン 歯ー、または世界』は、 自分とは歯であって決して脳の中の何かなどではないと決めることで、他者が、 世界がどう見えてくるか追う珍無類の奇想小説である。しかもこの追求を伝える言葉が、 埴谷雄高好きな作家が生まれ育った地の大阪弁で、音読するだに快い庶民的、 肉感的なリズムをつくりだす独特な言葉であることが良い。人間の自己や他者、 世界との関係は脳がつくりだすという今般流行の常識をラテン的哄笑をもってゆるがせるこの「口中の世界」は平成の世に咲くラブレー的伝統の力わざだが、 それを力わざらしくなく事もなげにやってのけている所に、 久々に<天才>の異様を感じて心から驚かされた。
2003年から三年間の日記を活字にした『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』は日記、 日常随想の形こそ取っているが、結果として『わたくし率 イン 歯ー、または世界』と全く同質のものに仕上がった。
知性たると同時にまぎれもなく身体でもある「頭」や「歯」をメタファーとして、 生とは、実在とはという重い問いを飽くまで、食べたり傷ついたりする身体の日常的事件の中で発する姿勢は清々しいほど一貫しており、しかもこの日々の哲学というべきものは嫌味なく巧妙にやらせるものとしての大阪弁の使い方にもやはり相当自覚的である。 収中「フラニーとゾーイでんがな」に川上未映子文学の全てが要約されている。
日常的雑多なものを容れる手前、創作歌手でもある作者は「結ぼれ」という詩を入れたりもする。 まさしく日々の複雑に対峙する結ぼれの心身器官としての「頭」とは即ち文学と歌の「結ぼれ」の力のメタファーであることが切ないほど巧く伝えられた。
※川上氏は2008年に「乳と卵」で第138回芥川賞を受賞した。














